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『山野ブルース』 エドワード・ファウラー

調子に乗って、今日もまた10年ほど前のレビューを(笑)

ゼミと言うのはこの当時大学生だったからなのですが。
どこのゼミなんだろう^_^;?
アタシ確かゼミは生命倫理だったんだけど^_^;
なぜ寄せ場・・・^_^;


sannya.jpg


山谷ブルース (新潮OH!文庫)



ともかく、著者の心情が
とてつもなく印象に残っている本です。

*********************


「山野ブルース」  エドワード・ファウラー


ゼミの課題で「寄せ場」について調べていました。
それで何とも心に残り消えないのが、この本です。

著者はアメリカの社会学の教授です。
日本の下層生活者の生活調査を13年まえに行いました。
その時の本が「山野ブルース」です。

みなさんは、「寄せ場」ってご存じでしょうか?
日雇い労働者が仲介者から建設関係の仕事を仲介して貰う場所
そして労働者が宿泊する「どや」が密集するところ。
東京では山野、大阪では釜ヶ崎が代表的です。


基本的には個人の生活史を聞き取る社会調査法の本なので
その対象により聞き取りも色々と工夫されます。
社会から切り離され、家族から遠のいた労働者たちは
それぞれに理由を抱えています。
ほとんどは日銭で仕事をして、酒を飲んで、
「どや」にさえ泊まれないときは、野宿をしています。

小うるさい外の世界の理屈で、身の上を話してくれる事は少なく。
ましてや、外国人の彼には、厳しい攻撃も多々ありました。
その中で幾人かと親しくなり、
労働者及び路上生活者と会話を重ねていきます。
「メモは取らない」と言う方法を彼は選びました。
なるべく自分の介入を組み込まない
労働者の「素」を知りたかったからです。
数字を連ねた調査本ではありません。
どちらかと言えば「ドキュメンタリー」と
言えるでしょう。


著者は、一緒に彼らと生活をすることを夢に見ます。
つまり、日雇いとしてその社会に暮らしてみることを
望んだのです。

調査が一段落した彼は、一時帰国しましたが、
労働者達が年を取り、仕事もなく、野宿者となり
山野の様子も一年と言えず変わって行くことを
肌身に感じていました。
日雇いの場所ではなく、ホームレスの場所へと
「寄せ場」は変容し出していました。
今を逃しては、山野が山野であったということすら
過去の事になってしまう。気持ちは焦りました。

翌年、教授職の関係でカリフォルニアに移るというときに
煩わしい引っ越し算段と家族を残し
かれはむりやり来日し、山野へむかいます。
そしてベッドハウスで生活し、労働者とともに
必死で仕事を探します。
順調に見えた雇用も、雇用主の関係でダメになり
きつくてランクの下がる仕事にも手を出します。
手配師をさがして、かけずります。
今日仕事にあぶれるわけには行かない・・・
なんとしても仕事を探さなければ・・・

炎天下でのきつい作業が終わり
一杯のビールと焼酎が彼を優しく包みます。
労働の疲れと開放感から、仲間にいとおしさを感じます。
風呂に入り、9時には寝付きます。
明日も又、使って貰えるだろうか?と考えながら。


国際通話が掛かる公衆電話から
妻に電話をします。
妻は怒っています。
引っ越すために必要な家の売買いが上手く行かないのです。
あからさまに怒るわけでもないけれど
冷ややかに責める言葉に彼は狼狽えます。
そう、まだ暗い雲に隠れて確認が出来ないモヤモヤ
それは「帰りたくない」と言う気持ち。


遠く冷ややかな声と、明るく楽しくさえ聞こえる仲間達の声。
著者は、暑く茹だった東京の電話ボックスのなかで、
遠い妻の小言を「電話を切るまでの辛抱」と思ったことを
告白します。
電話さえ切れば、その雑事から気分を切り離すことが出来ると
その誘惑に「耐えよう」としている自分を知ります。


この本の中の最後、このくだりには
山野を覆っている何かの力を感じました。
人々を社会から全く完璧に匿うような、
柔らかく温かいそしてひりひりしたもの

日雇い、労働、やくざのピンハネ、組合活動、
野宿、残飯拾い、酒の匂い、冬を越えられず死んで行く人々
それらを包み込み自分を埋没させてくれる
明日のことだけ考えたらいい生活。

ある時ふと、それを選んで故郷に帰らなかった。
そしてずっと帰れなかった。

そんな人達を、書いています。
資料として使った他の本には
この著者に対して、
労働者と調査側に立ちはだかるものがなにか分かるのか。
という、一文がありました。

外国人だから分からないといいたそうでしたが、
私に「ふと、埋没したかった」心を見せてくれたのは
この本の著者でした。


2002/5/17



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